AI(人工知能)向け半導体を手がける米新興企業Positron(ポジトロン)が、8億7,500万ドル(約1,300億円)の資金調達を実施し、企業価値は50億ドル(約7,400億円)に達しました。AIの「推論」処理に特化した独自チップで、エヌビディアが独占する市場に挑みます。
安価なメモリーで大容量を実現
米ネバダ州リノに拠点を置くPositronは、生成AIが実際に文章や回答を生み出す「推論(インファレンス)」と呼ばれる処理に狙いを定めています。同社の最大の特徴は、AI半導体で主流の高価な「HBM(広帯域メモリー)」を使わず、パソコンなどで広く使われる安価な「LPDDR5X」メモリーを大量に搭載する設計思想にあります。
次世代チップ「Asimov(アシモフ)」は、1個あたり288ギガバイトから最大2,304ギガバイトという桁違いのメモリー容量を備えます。台湾積体電路製造(TSMC)の最先端「N3P」プロセスで2026年末に設計を完成させ、2027年後半の量産開始を目指します。
ネットスケープ創業者も出資
今回の調達は2段階で構成され、ネットスケープ共同創業者として知られるジム・クラーク氏も出資に加わりました。調達資金は、チップ開発や専用データセンターの建設、複数のチップを束ねた次世代システム「Titan(タイタン)」の量産に充てられます。
日本への影響
Positronの挑戦は、日本の半導体・電子部品業界にとって新たな商機と競争の両面を突きつけます。まず注目すべきは、同社が高価なHBMを避け、汎用メモリーであるLPDDR5Xを大量に使う点です。この設計が業界で広がれば、汎用DRAM(記憶用半導体)の需要が押し上げられる可能性があり、メモリー市場に関わる日本企業や、キオクシアなどのストレージ企業に波及効果が期待できます。一方で、AI半導体の主戦場が「学習」から「推論」へと広がることは、日本勢にとっても重要な意味を持ちます。推論向けチップは省電力性やコストが重視されるため、電力効率に強みを持つ日本の電子部品メーカー、例えば村田製作所やTDK、ローム、あるいは製造装置の東京エレクトロンにとって、新たな受注のチャンスとなり得ます。さらに、TSMCの最先端プロセスを使う点は、TSMCの熊本工場をはじめとする日本国内の半導体供給網の重要性を改めて浮き彫りにします。日本の投資家としては、AI相場をエヌビディア一強の視点だけで捉えるのではなく、推論チップという新潮流の恩恵を受ける日本企業を見極める視点が求められます。
まとめ:AI半導体の覇権争いは、王者一強から群雄割拠の時代へと動き始めています。次の主役はどこか、供給網の川上まで目を向けてみてはいかがでしょうか。
出典:
Yahoo Finance – Positron AI raises $875 million at $5 billion valuation
PR Newswire – Positron AI Raises $875 Million at a $5 Billion Valuation
Converge Digest – Positron Raises $875M to Scale Memory-First Inference Silicon
Photo: Brecht Corbeel / Unsplash


